「やらない後悔」より「やって失敗」を選ぶ。どん底から自分だけの正解をつくった、ある起業家の泥臭い逆転劇——フィルグレック株式会社

「やらない後悔」より「やって失敗」を選ぶ。どん底から自分だけの正解をつくった、ある起業家の泥臭い逆転劇——フィルグレック株式会社

櫻木 智恵氏

櫻木 智恵氏

フィルグレック株式会社

代表取締役

(さくらぎ・ともえ)/愛知県豊田市出身。広告代理店のデザイナー、建材メーカーの企画・営業支援を経て2019年に起業。新築を売って終わりの業界構造に疑問を持ち、空き家再生・賃貸事業をスタート。コロナ禍での売上低迷のどん底を、岐阜女子大生との産学連携によるDIYシェアハウス作りで打開。現在は空間デザインからマンスリーマンション事業まで幅広く展開する。

フィルグレック株式会社の代表を務める櫻木智恵さんは、愛知県豊田市の出身で、広告代理店のデザイナーから建材メーカーの企画や営業支援へと、少し異色の経歴を歩んできたパワフルな人物です。現在は、空き家の再生や賃貸事業、空間デザイン、さらにはマンスリーマンション事業まで、不動産・建築領域における多岐にわたる事業を一人で立ち上げて展開されています。新築をメインとする業界のあり方に独自の視点から課題感を見出し、2019年に起業したものの、直後にコロナ禍に見舞われてどん底を味わったという彼女ですが、そこからどのようにして道を切り拓いてきたのでしょうか。

 

「やらないで後悔するより、やって失敗した方が自分が頑張ればリカバリーができる」と語る櫻木さんの、力強い仕事への向き合い方について、じっくりとお話を伺いました。

 

 

メーカー勤務時代の違和感と、自分の手で触れられる手触り感への渇望

 

——もともとは広告デザインの会社からキャリアをスタートされて、そこから建材メーカーに入られたということですが、そこからどうやって現在の起業に繋がっていったのでしょうか。

 

櫻木社長(以下、櫻木):制作部が4名で営業が5、6人という小規模な広告代理店に入社して、デザイナーとして新聞広告や企業向けの販促ツールの企画などを作っていたのですが、当時は本当に残業が多くて、寝袋を抱えて会社に泊まり込むこともあるくらい、がむしゃらに仕事へと没頭する毎日を送っていました。結婚のタイミングなどもあって、これからの自分のライフスタイルや働き方を改めて考えて転職し、建材メーカーの企画営業部に派遣社員として入ったのが、私と建築業界との初めての出会いになりますね。そこで建築というものに本格的に興味を持ちまして、通信教育で大学に入り直して建築を学んだりしながら、その後は直販営業の支援や、支店向けにパッケージデザインの企画を提案するような仕事に携わってきました。

 

——デザインのお仕事と建築業界って、少し畑が違うようにも思えますが、そこで感じたやりがいや、起業のきっかけになるような出来事があったのでしょうか。

 

櫻木:空間を認知してデザインするという意味では通ずるものがありまして、3D CADを使ってお客様に視覚でご提案するような仕事はずっと続けていたのですが、メーカーで働く中で、新築をメインに提供していく業界のあり方に対して、次第に自分なりの視点から考えるようになってきたんです。当時は今ほどリフォームという言葉が世の中的に当たり前ではなくて、新築をご提供することが事業の中心となる風潮があったのですが、私たちがご提供した家は10年後、20年後にどうなっていくのだろうかと、ふと考えた時期があったんですよね。当然、メーカーとしては新しい住宅をご提案していくことが大切な役割なのですが、自分は何がしたいのかを一旦リセットしたい想いが強くなり、会社を退社しました。

退社後に出産を経験し、育児をする忙しさの中で自分自身の住まいに対する使い勝手の悪さを考えるようになり、住まいに関わる何かお手伝いできる仕事はないだろうかと模索し始めました。自分にできることを見つめ直す中で、売りに出ている空き家やアパートを買い取って、リフォームやリノベーションを施して、安価で上質な賃貸住宅として提供するという事業をやろうと思い立ち、2019年に思い切って不動産賃貸業として独立することを決めました。

 

 

コロナ禍のどん底。肩書きだけの自分に絶望した日々

 

——会社という組織に属していればある程度安定していたと思うのですが、一人で事業を立ち上げるというハードルに対して、不安などはなかったのでしょうか。

 

櫻木:長年組織から離れていた時期もあったりして、再び就職してルールの中で働くということが自分の中であまり考えられなかったのと、思いついたらやってしまうというか、やらないで後悔するよりは、やって失敗した方が、自分が頑張ることでいくらでもリカバリーができるんじゃないかという思いがありましたね。起業した当初は、2年で10軒くらいの空き家を仕入れてリノベーションを回していくぞ、と意気込んでいたのですが、立ち上げて本当にすぐにコロナ禍になってしまいまして、状況がすっかり一変してしまいました。私がターゲットにしていたのは、愛知や岐阜、三重といった地方の田舎にある、まだまだ活用できるのにそのまま放置されているような空き家だったのですが、コロナの影響でそもそも田舎に足を運んで物件を見て回るということ自体ができなくなってしまったんです。想像していた以上に物件の仕入れができず、当然リフォームをすることもできなくて、初年度の売り上げは300万円にも満たないくらいで、自分の給料なんて到底取れないような、本当にどん底の状態に陥ってしまいました。

 

——世の中的にも大変な時期でしたが、起業直後にそこまで身動きが取れなくなってしまうと、精神的にもかなり追い詰められたのではないでしょうか。

 

櫻木:正直に言うと、夫の収入がなければ生活していけないレベルで、せっかく起業したのに実質的には副業のような状態になってしまい、自分はいったい何をやっているんだろうと激しく落ち込む日々が続いていましたね。会社の代表という肩書きだけは立派にあるけれど、中身が伴っていない自分に対して不甲斐なさを感じていましたし、どうしても事業を走らせることを優先して、当時まだ小さかった子供との時間も犠牲にしてしまっていたので、ふと我に返ると自分が何をしているのかわからなくなって、本当に辛い時期でした。やっぱりそういった私の負の感情というのは、子供にもダイレクトに伝わってしまうみたいで、子供が学校に行けなくなってしまったり、情緒不安定になってしまったりして、全てが遠のいていくような、何もかもうまくいかない八方塞がりの感覚に襲われていました。コロナで学校も休みになり、保育園すらも行けず、家で悶々と過ごしながら外に出ることもできず、知り合いの会社さんの事務所の片隅を間借りして居候のように過ごしていた時は、本当に先が見えなくて苦しかったです。

 

 

現場で汗をかく。学生との「DIY」が連れてきた転機

 

——そこからどのようにして状況を打開し、今の事業展開へと繋がっていくようなターニングポイントを迎えることができたのでしょうか。

 

櫻木:大家さんが集まる会みたいなものに参加していた時に、女子大の産学連携に携わっている方と知り合う機会がありまして、ちょうどその頃、私が岐阜の山県市という田舎になんとか空き家を一つ購入できたタイミングだったんですね。その大学が、学生によるリフォームの企画やDIYの実地研修を授業の一環としてやっているというお話を伺いまして、それなら私が購入したその空き家を使って、女性向けのシェアハウスを学生さんたちと一緒に企画して作り上げるというプロジェクトができないかと提案してみたんです。生活学科の1年生から3年生までの学生さんたちが週に1回集まってくれて、授業の一環として、自分たちで壁紙を貼ったり、塗装をしたり、大工さんのお手伝いをしたりという実地研修を、弊社が請け負って約1年がかりで進めていきました。私自身も学生さんに「ここの部分をやってもらいたいので教えてあげてください」と職人さんにお願いするなど、現場監督のような立ち回りをしながら、お金もない中で現場で汗を流して、みんなで一つの住宅を作り上げるという経験をすることができました。

 

——お金がない中で1年もかけて学生たちと家を作り上げるというのは、かなり大変だったと思いますが、それが大きな転機になったのですね。

 

櫻木:本当にコロナ禍の中で感染対策などにも気を遣いながら毎週通って準備をしてと、大変なことばかりでしたが、私自身も現場で住宅作りを一から学び直す非常に貴重な機会になりましたし、なんとこの取り組みが新聞などのメディアに取り上げられたんです。それを見た知り合いの大家さんや不動産関係の方から、「デザインがすごく良いから、うちのリフォームもやってもらえないか」というお声がけをいただくようになりまして、インスタグラムで発信していた効果もあって、不動産賃貸業だけでなく、空間デザインやリフォーム事業のお仕事が少しずつ舞い込んでくるようになりました。それが2022年の半ばくらいのことだったのですが、そこから事業が一気に動き出しまして、本当に現場で人と関わりながら真面目にやってきたことが、結果的に自分を救ってくれることに繋がったんだなと感じています。今は建築資材の高騰などもあって、大きなリノベーション工事は信頼できる業者さんにお任せすることが多いですが、どこに頼んでいいかわからないような小さなリフォームの相談に乗ったり、良い業者さんをお繋ぎするパイプ役のような動きもしておりまして、困っている方のお手伝いができる今の体制にとてもやりがいを感じています。

 

 

「誰とやるか」に行き着いた今の哲学と、悩める20〜30代へのメッセージ

 

——最近ではまた新しい事業の柱として、マンスリーマンション事業も立ち上げられたと伺いましたが、本当にアグレッシブに行動されていますね。

 

櫻木:今年の4月から新しくマンスリーマンション事業を立ち上げまして、空室に悩むオーナーさんのお部屋を活用させていただく形で、ゆくゆくは3年後には150室を運営する規模にまで育てていきたいという目標を掲げて動いています。実は最初、流行りの民泊をやろうと思って先行して一室をリノベーションしてしまったのですが、後から建物の消防法の要件を満たすために数百万円の追加工事が必要だと判明して、あっさりと「あ、これはダメだ」と諦めて方向転換したという裏話もあるんです。予期せぬことといえば、昨年の6月27日にリノベーションに関する本を出版したのですが、なんと発売した直後の7月1日にその出版社が倒産してしまいまして、書店に並んだ本がすぐに引き取られてしまうという、嘘のような本当のトラブルもありました。でも、そういう予期せぬトラブルや失敗があっても、あんまり引きずることなく「じゃあ次はどうしようか」と別の切り口を探して動いていけば、なんとかなるものなんだなと、これまでの経験から学ぶことができました。

 

——いろいろな苦労や失敗を乗り越えてきた櫻木さんから見て、働き方やこれからのキャリアに悩んでいる若い世代に向けて、伝えたいことはありますか。

 

櫻木:女性は特に、仕事を取るか、結婚や出産を取るかといったライフステージの変化で必ず悩むタイミングが訪れると思いますが、決してその時々に選んだ選択肢が、次の選択肢を狭めることはないと私は思っているんです。会社員として安定的に過ごす道もあったかもしれないと振り返ることはありますが、自分がその時に「これだ」と思ってした選択を信じて、それを正解にしていくように動けば、40代、50代になった時に絶対に間違っていなかったと思えるはずです。そして、いろんな仕事を経験し、多くの人と関わってきた中で私が一番強く感じるのは、仕事の業務内容や大変さ以上に、「結局は誰とやるかが一番重要だ」ということなんです。どんなに大変な仕事であっても、同じ方向を向いて一緒に汗をかいてくれる仲間や、楽しくコミュニケーションを取れる人たちが周りにいれば、それだけで乗り越えられる部分がたくさんありますから、条件や環境だけで悩むのではなく、目の前の人とどう関わっていくかという視点を大切にしてほしいなと思います。

 

 

一人で事業を立ち上げ、コロナ禍という先の見えない不安の中で「自分は何をしているのだろう」と絶望し、時には涙を流しながらも、現場に出て学生たちと汗をかくことで道を切り拓いてきた櫻木さん。

失敗を恐れて動けなくなるくらいなら、やって失敗してリカバリーする道を選ぶ。そして、最終的に仕事の楽しさややりがいは「誰とやるか」という人と人との関わりの中にこそ見出せるという彼女の言葉には、綺麗事ではないリアルな体温が宿っていました。

私たちはつい、仕事の条件や業界の将来性、あるいは会社の制度といった目に見える枠組みだけで「このままでいいのだろうか」と思い悩んでしまいがちです。

しかし、自分の選択を正解にするための覚悟を持ち、誰かと一緒に汗をかきながら試行錯誤する泥臭さの中にこそ、働く意味を取り戻すためのヒントが隠されているのだと、今回の取材を通じて強く感じさせられました。

この記事を書いた人

宗宮彰良

宗宮彰良

ツムログ副編集長。2012年に新卒でアクセスに入社し中小企業の社長のお悩みを500社以上サポート。採用の枠を超えたお悩み解決をモットーに月間50件の商談をさせていただいています。想いが強ければ採用はうまくいく。一緒に想いをかなえましょう。

営業

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