目次
柏 太輔 氏
カシワギ電気株式会社
代表取締役
電気工事事業を手がけるカシワギ電気株式会社の代表取締役・柏社長は、40歳前後で会社を引き継いだ直後、8億円規模の巨額な負債と連帯保証人の重責という壮絶な試練に直面しながらも、現場主義と「しあわせづくり」という温かい理念で経営を再建。出所者や少年の更生支援、厳しくも仲間との絆を育む若手研修、そして地域社会や子どもたちへの寄付活動に取り組む。
電気工事事業を手がけるカシワギ電気株式会社の代表取締役・柏社長は、40歳前後で会社を引き継いだ直後、8億円規模の巨額な負債と連帯保証人の重責という壮絶な試練に直面しながらも、現場主義と「しあわせづくり」という温かい理念で経営を再建。出所者や少年の更生支援、厳しくも仲間との絆を育む若手研修、そして地域社会や子どもたちへの寄付活動など、表層的なビジネス論では語れない「体温のある組織づくり」のリアルな言葉をお届けします。
「代表になった瞬間、8億円の保証人に」――重責を担う覚悟と現場主義で切り拓いた経営再建の道
――社長が先代から経営を引き継がれた際、かなり壮絶なスタートだったとお伺いしているのですが、当時の状況について具体的にお聞かせいただけますでしょうか。
柏 私が40歳くらいの時に会社の代表になったんだけど、その時は共同代表という形になって、気づいたら8億円くらいの保証人になっていたんだよね。当時は利益なんてゼロみたいな状態で、銀行に年間1000万円以上の利息を払うためだけに働いているような過酷な状況だった。周りからも「お前、借金背負わされてひでえな」なんて言われたりもしたけど、紙切れにサインしちゃった以上、もう逃げずにやるしかないと腹をくくってスイッチが入ったんだよね。
――8億円の負債というのは相当な重圧だと思うのですが、そこからどのようにして会社を立て直していかれたのでしょうか。
柏 結局さ、自分自身も現場に入ってみんなと一緒に汗を流して泥臭くやるしかなかったんだよ。ちょうど時期的に公共事業の仕事が増えてきたタイミングでもあったから、うまくパズルを組み合わせるように現場に人を当てはめて、私自身も一緒になって必死に動いたから誰も文句も言わずにみんなで乗り切っていった感じだね。安易な目先の利益追求や人件費削減に走るんじゃなくて、現場で愚直に「良い仕事」をして信頼を積み重ねていくことで、結果的に5年くらいで税金や負債を返済して、健全な経営体質に変えることができたんだよね。
「やり直すチャンスがあったっていい」――刑務所や少年院に足を運び、人の可能性を信じ抜く理由
――カシワギ電気様では、出所者や少年院を出た若者の積極的な採用や更生支援にも取り組まれていると伺いました。そういった取り組みを始められたきっかけは何だったのでしょうか。
柏 最初は更生保護団体さんを通じて法務省のOBの方から話を聞いたのがきっかけだったんだけど、「人生1回や2回の失敗でやり直しが効かないのはおかしいんじゃないか」っていう思いがずっと根底にあったんだよね。周りの経営者仲間からは「そんな人たちを採用して大丈夫か?」って反対されることもあったけど、実際に刑務所や少年院まで足を運んで直接本人と会って話してみると、本当に一生懸命で根は真面目なやつらばかりなんだよ。
――実際に採用された後、彼らはどのような活躍をされているのでしょうか。
柏 最初に雇った彼なんて今ではもう7年目になるんだけど、社内用の動画や講演会用の動画を独学で作ったりしてすごく活躍してくれているんだよね。もともと俳優志望だったらしくて「パソコン買ってください」って言ってきたときは周りに反対もされたけど、本人のやりたい気持ちを信じて買ったら素晴らしい動画を作ってくれて、今では家族もできて本当に頑張って生きているよ。一度挫折したからこそ人一倍頑張ろうとする熱量があるし、環境さえちゃんと整えてあげれば人は変われるし成長できるんだなって彼らから教えてもらったよね。
「辛いときに『あの時よりマシだ』と思えるように」――過酷な外部研修が育む、一生ものの心の強さと社内の絆
――新入社員の方々を携帯電話が使えない厳しい外部研修を受けていると伺いましたが、今の時代には珍しいその取り組みにはどんな意図があるのでしょうか。
柏 今の時代にはまったく合っていないし逆行しているって言われることもあるんだけど、やっぱり新入社員としての心構えだったり学生から社会人になるための強烈な「節目」が必要だと思うんだよね。私自身も若い頃にその研修を経験しているからわかるんだけど、厳しい環境を乗り越えた経験があると、仕事で辛いことや壁にぶち当たったときに「あの時の厳しさに比べたら全然大丈夫だ」って思い出して踏ん張れる心の強さが身につくんだよ。
――研修から帰ってきた社員さんたちの様子や、社内の雰囲気に変化はあるのでしょうか。
柏 1週間の研修を終えて帰ってきた彼らを、すでに行ってきた先輩社員たちが「お帰り!」って温かく迎えてみんなで飲みに行ったりする文化ができているんだよね。今では社員の3分の1くらいがその研修の経験者になっているんだけど、共通の辛い経験を通じた独特の絆みたいなものが社内の中に自然と生まれて、お互いを思いやれる空気感になっているのはすごく良いことだなと感じているよ。
「誰かの役に立つ喜びを味わってほしい」――生活苦に寄り添う夜間緊急対応業務と、地域の子どもたちへの恩返し
――名古屋市の市営住宅での夜間緊急対応業務など、少し特殊で大変な現場の仕事も任されているそうですが、これにはどのような背景があるのでしょうか。
柏 夜間の漏電対応や火災警報の対応なんかは、夜中の2時や3時に電話がかかってきたりして携帯から離れられないから誰もやりたがらないんだけど、生活苦や借金を抱えていた実の弟や社員に任せることでしっかりした収入と「働く喜び」を感じてもらおうと思ったんだよね。元々飲食店をやっていた弟も、最初は大変そうだったけど「仕事があって給料がもらえることがこんなにしあわせなんだ」って実感してくれて、3年くらいで借金を返済して人間的にもすごくたくましく成長してくれたんだよ。
――さらに、児童養護施設や地域の部活動支援など、多岐にわたる寄付活動も継続されていると伺いました。
柏 元々は社員の家庭事情がきっかけで養護施設の子どもたちの現実を知ったんだけど、自分たちの経営に少し余裕ができたなら、名誉や節税のためじゃなくて陰から社会に還元するのが当然だと思っているんだよね。最近では部活動の地域移行で指導者が足りないっていう話を聞いて、プロの監督を外部から呼ぶための寄付や環境整備をバックアップしたりもしていて、自分たちが作った「しあわせ」を地域や子どもたちに少しずつ広げていけたらそれが一番だなと思って活動しているよ。
「目先の金より、良い仕事をして評価されること」――働く意味を見失いそうな大人たちへ贈るプライド
――最後に、大企業や効率重視の世の中で「何のために働いているんだろう」と漠然と悩んでいる愛知県の20代・30代の若者に向けてメッセージをお願いできますでしょうか。
柏 世の中や企業がいくら利益重視や効率化に走ったとしても、現場で愚直に「良い仕事」をして相手や社会から信頼されることこそが、仕事の本当の面白さであり誇りだと思うんだよね。うちの会社も綺麗なスマートな会社ではないかもしれないけれど、現場で汗を流して誰かのインフラや生活を陰から支えることに本気で向き合っているからこそ、みんな活き活きと働いてくれている。一歩一歩目の前の仕事に誠実に向き合っていけば、必ず自分の居場所や働く意味は見えてくるはずだから、失敗を恐れずに前を向いて進んでいってほしいね。

社長から伺った「8億円の負債を背負った過酷なスタート」や「刑務所・少年院に自ら足を運ぶ採用」、「携帯の使えない過酷な研修」といったエピソードは、一見すると現代のビジネスのトレンドや「効率」「スマートさ」とは対極にあるものかもしれません。しかし、その根底に流れているのは、「人生で1度や2度失敗したくらいでやり直しが効かないなんておかしい」という愚直なまでの人間愛と、現場で自ら汗を流してきたからこその強烈な説得力でした。
効率や正解ばかりが求められ、人間関係の希薄さに孤独や焦りを覚えがちな今の時代において、柏社長が作る「一度失敗してもやり直せる居場所」や「辛い経験を共にして『お帰り』と言い合える仲間の絆」は、働く意味を見失いかけている私たちの心に力強く響きます。
この記事を書いた人
宗宮彰良
ツムログ副編集長。2012年に新卒でアクセスに入社し中小企業の社長のお悩みを500社以上サポート。採用の枠を超えたお悩み解決をモットーに月間50件の商談をさせていただいています。想いが強ければ採用はうまくいく。一緒に想いをかなえましょう。
営業
このライターの記事をもっと見る →他の記事を読む
元・尖っていた社長が、現場で見つけた『人生を共有する』働く意味。
今回は、大手重工業企業から12人の電気工事の会社へ飛び込み、数々の葛藤を乗り越えて売上を11億にまで成長させた三輪社長にお話を伺いました。綺麗に飾られた成功談ではない、現場のリアルと、仕事の本質がここにはあ […]
「ガチガチの目標なんてなくていい」。パン愛ゼロから始まった、池下ベーカリーrico・安堂さんに学ぶ“ゆらゆら”働くヒント
ベーカリー「rico」のオーナーシェフである安堂航也さんのキャリアは、「人に合わせるのが苦手」という極めて個人的で、飾らない理由からスタートしています。 「この仕事で社会にどう貢献するか」「どんな自己実現を果たすか」。そ […]
取扱商品を絞り、無駄な仕事を削ぎ落す。「やめる経営」の裏にある、三代目社長の社員愛。
「最初は親父のいい車への憧れだった」「ズブズブの泥臭い営業が楽しかった」 そうあっけらかんと笑う山本社長。家業を継いでからは、カフスや扇子などの取扱商品を大胆にやめるなど一見ドライに見える「やめる経営」を断行してきました […]