誰かの人生に新しい熱を灯すための、静かな「入り口」

誰かの人生に新しい熱を灯すための、静かな「入り口」

高松 国生氏

高松 国生氏

合同会社TOBE

代表

(たかまつ くにお)/ 愛知県出身。工業高校卒業後、製造業で工場勤務を4年経験し、商社の営業へ転職。幼少期からの「独立したい」という思いを抱える中、コロナ禍に友人の勧めで入ったサウナで衝撃を受け、26歳で起業を決意。資金・経験ゼロから北海道での住み込み修行や車中泊での全国サウナ行脚を経て、融資を獲得。現在は名古屋市内で個室サウナ「TO BE SAUNA」などを運営し、サウナの魅力を広め続けている。

愛知県名古屋市中区。オフィスビルや飲食店が立ち並ぶエリアの一角に、ひっそりと佇む隠れ家のような個室サウナ「TO BE SAUNA」がある。

運営会社である合同会社TOBEの代表を務める高松国生氏は、工業高校を卒業後、工場の製造ラインで働き、その後は商社の営業マンとしてキャリアを積んできた。そんな彼が26歳で独立し、サウナ事業を立ち上げた背景には、ある日突然訪れた「なんじゃこりゃ!」という強烈な原体験があったという。

スマートな若手経営者という肩書きからは想像もつかないほど、彼の起業ストーリーは泥臭さと執念に満ちている。資金も経験もない状態から、いかにして銀行からの融資を引き出し、名古屋で最も厳しいと言われる公衆浴場の営業許可を自力で勝ち取ったのか。そして、なぜ彼は大衆サウナではなく「個室サウナ」という形にこだわるのか。

熱狂的なサウナブームの裏側で、ただひたすらに「サウナを好きになるきっかけを作りたい」と走り続ける高松氏の、飾らないリアルな言葉をお届けする。

 

 

嫌々入ったサウナで受けた「なんじゃこりゃ!」という衝撃

 

――もともとサウナがお好きで、ご自身で事業を立ち上げようと思われたのでしょうか。

 

高松代表(以下、高松):いや、全然そんなことないんですよ。僕も完全にミーハーで、本当にコロナ禍が始まって急にサウナブームが起きた波に乗っかったという感じです。

もともと小学生の頃から、本当にちっちゃい頃から「独立したい」という思いだけはずっとあったんです。ただ、本当に頭が悪かったので、何をやって独立しようかという具体的な目標は特段なくて。工業高校を卒業してからは工場系の製造業で4年ほど働き、22歳の時に商社へ転職して、工場の設備の保守などを請け負う営業をやっていました。その営業時代に、サウナと出会ったんです。

 

――どのようなきっかけだったのですか?

 

高松:小さい頃から温泉旅行に出かけるのは好きだったんですが、サウナに関しては全然興味がなくて。むしろ、おじさんが汗水垂らしながら入っているような場所に、なんでわざわざ行かなきゃいけないの?と敬遠していたくらいです。

でもある日、僕と生年月日が全く同じ友人に「お前サウナ入ってないの?」と言われまして。「騙されたと思って一回入ってくれ」と無理やり連れて行かれた愛知県内のスーパー銭湯で、言われた通りにサウナに入ってみたら「なんじゃこりゃ!」と雷に打たれたような衝撃を受けてしまって。

そこからですね。こんなに良いものは世の中にもっと知らせないと、もっとみんなに知ってもらいたいと強烈に思うようになったのは。それが25歳くらいの時で、これを事業にして独立しようと決意しました。

 

 

経験ゼロで融資は不可。北海道での住み込み修行と、車中泊での全国行脚

 

――とはいえ、25、6歳でいきなりサウナ施設を作るとなると、資金面などハードルがかなり高かったのではないでしょうか。

 

高松:そうなんです。25、6歳なので当然手元に資金があるわけでもなく、全て借り入れをしようと考えました。でも、銀行へ行っても「サウナ施設での業務経験がないとお金は貸せない」とあっさり断られてしまって。

サウナ施設でのアルバイト経験もなかったですし、どうしようかなと悩んだ末に、もう北海道へ飛ぶしかないなと。北海道の登別にあるグランドホテルに直談判して、バイキングのスタッフとして働きながらサウナ施設のスタッフも兼務させてもらうという条件で、3ヶ月間住み込みの修行をさせていただきました。

そこから名古屋へ帰ってきて、銀行の担当者さんに泣きながら頭を下げて「お金を貸してください」と頼み込み、なんとか融資を引っ張ってくることができたんです。

 

――すごい執念と行動力ですね。融資が下りてからは順調に進んだのでしょうか。

 

高松:融資が下りてから実際に自分の店舗ができるまで、工事などで1ヶ月ほど期間が空くんですよ。なので、その期間を使って今度は47都道府県のサウナ施設を車中泊で回りながら勉強しようと思いつきまして。

オーストラリアへ行く予定だったサウナ好きの友人を誘って、愛知県を出発して関西から四国、九州、沖縄まで行きました。全国のサウナ施設を回りながら、運営方法や施設の作りをひたすら視察して回ったんです。

ただ、九州から太平洋沿いを回って帰ろうとしたタイミングで、山口県で鹿と車がぶつかるという事故を起こしてしまって(笑)。それで車がダメになってしまったので途中で帰ってくることになりましたが、あの時期の泥臭い経験は今でも生きていると思います。

 

 

知識ゼロから自力で突破した、名古屋で一番厳しい営業許可

 

――無事に店舗が完成してからも、サウナ施設の運営には様々な行政の許可が必要だと聞きます。一番しんどかったのはどの時期ですか?

 

高松:やっぱり許可を取るまでの期間ですね。名古屋市って公衆浴場の許可の基準がすごく厳しいと言われているんですが、その中でもうちの店舗がある中区は一番厳しいらしいんです。

最初はそんな知識も全くなかったんですが、業者に許可申請を外注するようなお金はもう1円も残っていなかったので、全部自分で役所に通って、ポイントを一つひとつ調べながら図面を引いていきました。

施設の面積に対する水風呂のサイズ感だとか、細かい指定が山のようにあるんですが、こっちは限られた予算の中で工事をやらないといけない。予算の壁と厳しい行政のルールの間で融通を効かせるのが本当に難しくて。図面を書いては突き返される日々でしたが、最終的になんとか許可を取ることができました。

 

――オープン後の集客はどうされたのですか?

 

高松:オープン前から予算はカツカツだったので、集客にかける費用はいかにゼロに抑えるかを徹底的に調べました。Googleのマイビジネスを充実させたり、サウナに特化したアプリに登録したり、SNSを運用したりと、お金を一切かけずに自分たちの足と手を使って情報を発信し続けました。

そのおかげもあって、2023年の1月にオープンしてからは順調にお客さんに来ていただけるようになり、今ではビジネスマンを中心に幅広い層の方にご利用いただいています。最近では共同運営という形で、バーを併設した2店舗目「TENET」の運営にも関わらせていただいています。

 

 

なぜ個室サウナなのか。誰もがサウナを好きになる「きっかけの場所」を作りたい

 

――大衆向けではなく、あえて「個室サウナ」という業態を選んだのには、何か特別な思いがあったのでしょうか。

 

高松:僕がサウナの事業をやる上で一番根底にあるのは、「自分が味わったあの感動を、一人でも多くの人に伝えてサウナを好きになってもらいたい」という思いなんです。

個室サウナって、今までサウナに行ったことがない初めての人たちが結構来てくれるんですよ。「今日初めてサウナに入ります」という方がたくさんいらっしゃいます。大衆サウナだと、周りに知らない人がたくさんいて気を使ったり、入り方がわからなくて戸惑ったりして、サウナそのものを楽しむ前に疲れてしまうことがあるじゃないですか。

でも個室なら誰の目も気にしなくていい。自分でスマホで入り方を調べながらでもいいし、自分のペースで自由に楽しめる。サウナに集中するのを邪魔するノイズがないんです。

 

――たしかに、初心者にとっては大衆の目の前で裸になること自体がハードルだったりしますよね。

 

高松:そうなんです。それに、タトゥーが入っている方もそうですよね。今はタトゥーも一つのアートやファッションとして定着してきているのに、ルールとして大衆施設に入れないからサウナを経験できないという人がたくさんいる。

上司に「サウナ行ってこいよ」と勧められて来た若い子や、サウナ好きの彼氏と一緒に楽しみたいから来たという女性など、いろんな人が足を運んでくれます。そういう人たちがサウナを好きになるための、最初の「入り口」や「きっかけ作りの場所」として、うちの個室サウナが機能してくれたら本当に嬉しいなと思っています。

 

 

ライバルはいない。サウナの感動を広げるための終わらない探求

 

――名古屋には有名なサウナ施設もたくさんありますが、そういった店舗をライバルとして意識されたりするのでしょうか。

 

高松:ライバルだと思ったことは一度もないですね。ターゲットとしている客層も違いますし、そもそも愛知県でサウナ施設をやっている経営者の方々は、みんな純粋にサウナが好きな人たちの集まりなんです。だから経営者同士もすごく仲が良いですし、コミュニティとして繋がっています。

有名な施設に対しても「どうやって戦うか」ではなく、「あそこから何を学べるか」という視点で毎日めちゃくちゃ考えていますね。いろんな施設に行って勉強させていただいて、それを自分の店舗の運営にどう持ち帰って活かすか、ということしか考えていません。

 

――今後、事業として目指している展望などはありますか?

 

高松:そうですね、個室サウナの店舗展開も進めつつ、現在はAIを活用した集客プラットフォームの開発にも取り組んでいます。自分がサウナ事業を立ち上げて店舗を運営していく中で培ってきた、お金をかけずに集客するノウハウをシステム化して、他のお客さんにも提供していきたいと考えているんです。今年の10月くらいには使用できる状態になる予定です。

サウナの事業ももちろんですが、僕は根本的に「いろんなことに挑戦する」のが好きなんですよ。現状に満足して立ち止まるのではなく、常に走り続けながら新しいことを探求していきたい。サウナで感じたあの感動を軸にしながら、これからも泥臭く、色々な事業を仕掛けていきたいと思っています。

 

 

「頭が悪かったから、ただ行動するしかなかった」と笑う高松氏の言葉には、不思議なほどの清々しさがあった。

20代という若さで経験も資金もない中、北海道への飛び込み修行から車中泊での全国行脚、そして分厚い行政の壁に自らぶつかっていくその姿勢。それは、スマートな「若手起業家」という言葉の響きからはほど遠い、火傷しそうなほどの熱量と泥臭さに溢れていた。

日々の業務に忙殺され、「このままでいいのかな」と立ち止まりそうになった時。彼の言う「なんじゃこりゃ!」という初期衝動に素直に従い、不格好でもいいから一歩を踏み出してみることで、目の前の景色は確実に変わるのかもしれない。

彼が魂を込めて作り上げたサウナは今日も、誰かの人生に新しい熱を灯すための、静かな「入り口」として扉を開いている。

この記事を書いた人

宗宮彰良

宗宮彰良

ツムログ副編集長。2012年に新卒でアクセスに入社し中小企業の社長のお悩みを500社以上サポート。採用の枠を超えたお悩み解決をモットーに月間50件の商談をさせていただいています。想いが強ければ採用はうまくいく。一緒に想いをかなえましょう。

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