「何もスキルがない。だから死ぬ気でやるしかなかった」――48歳主婦からのスタート、17人の人生に超近距離で寄り添う

「何もスキルがない。だから死ぬ気でやるしかなかった」――48歳主婦からのスタート、17人の人生に超近距離で寄り添う

 

渡辺さんに特別なキャリアや輝かしい計画があったわけではなく、ただ「食べていくため、子どもの教育費を稼ぐため」に始めた事業。そこから10数年が経ち、現在は17名のスタッフを率いる立場となった渡辺さんが、AI時代だからこそ「人と人との関わり」を重視する、綺麗ごと抜きのリアルな経営スタンスを語ってくれました。

 

「食べていくためにやるしかなかった」――48歳のゼロからのスタート

-- 渡辺さんは20代後半でご結婚されて、それからはずっと主婦やパートをされていて、48歳のときにお一人で家事代行の仕事を始められたそうですね。その年齢から新しくご自身で事業を立ち上げるというのは、かなりの覚悟が必要だったのではないですか。

 

渡辺 そうですね、ただ私の場合は「自分で会社を立ち上げて、これからどんどん事業を大きくしてやろう」なんていうキラキラした思いは最初からまったくなくて、とにかく食べていくため、家族を育てていくために必死だっただけなんですよね。当時、子どもたちの大学進学などで教育費が一番かかる頃だったものですから、もう普通のパートタイマーの収入じゃ追いつかなくなってしまって。「何もできない、何のスキルもない自分だけど、家事なら毎日ずっとやってきたからできるかな」という本当にそれだけの理由で、始めたのがきっかけなんです。

 

--  立ち上げ当初は、最初からお一人で動かれていたのですか。

 

渡辺  一番最初だけはどこかの家事代行会社に所属したんですけれども、その会社が登録スタッフを大事にしなくて・・。現場に行くための駐車場代も自己負担だったり、時間単価もすごく安くて。「自分だったら絶対にこんなことはしない、もっと働くスタッフを大切にする会社を自分でやるわ」って決意したのが、一人で立ち上げる直接のきっかけになりました。

 

--  独立されてからは、最初から順調にお客さんが増えていったのでしょうか。

 

渡辺 いえ、立ち上げて本当にすぐの頃に、私が大病を患ってしまって、40日間も入院して手術を受けることになったんです。せっかく自分でやると決めて始めたばかりなのに、現場に穴をあけるわけにはいかないですから、もう必死の想いでお友達のママ友に頼み込んで、代わりに現場に行ってもらいました。でも、そのときに手伝ってもらったことが、結果的に少しずつ仲間を増やしていく最初のきっかけになったんですよね。

 

-- 入院から復帰されてからも、黎明期はかなり大変な日々だったとお聞きしました。

 

渡辺 最初はホームページを作ってもSEO対策なんて言葉もやり方も全然わかりませんでしたから、ネットからの反応なんてほぼゼロなんですよ。だから、たまに少し遠いエリアからでもお申し込みが入ると、嬉しくて嬉しくて車でどこまででも飛んでいきました!知多の方まで、高速代もかけられないから全部下道で1時間以上かけて、朝の8時の現場に入るためにまだ薄暗い朝の6時には家を出るような、そんな生活を大変だとも思わずに無我夢中で送っていましたね。

 

家族には「価値ゼロ」だと思われていた“家事力”が、一歩外に出るとなくてはならない存在価値になる

-- 現在は在籍スタッフが17名まで増えているそうですが、渡辺さんと同じような強い熱量を持って働いてもらうには、マネジメントとしても苦労が多いのではないですか。

 

渡辺  そこは本当に今でも毎日、手探りで上手にコーディネートしていかなければいけないなと感じている部分です。やっぱり「この仕事で生活を支えていくんだ」っていう気概と覚悟を持って働いているスタッフもいれば、プライベートを優先して空いた時間で働きたいというスタッフもいて、お互いの熱量にはどうしても差がありますからね。

 

-- そうした熱量の違いがある中で、渡辺さんがメリーポピンズを続けていく原動力はどこにあるのでしょう。

 

渡辺 うちに応募してきてくれる女性たちって、最初はみんな「私なんてずっとただの主婦だったから」「社会経験も特別なスキルもないし……」って自信なさそうにしているんです。お掃除希望で入ってきたスタッフが、お料理も得意そうだと思ってちょっとやってみてもらうと、実際にお客様から「本当に美味しい!」「あなたが来てくれないと困る、なくてはならないライフラインだ」ってものすごく感謝されるんですよね。

 

--  家族のために当たり前にやっている家事が、他人から直接感謝される機会って、主婦の方だとなかなか無いですよね。

 

渡辺 そうなんですよ、家族のために毎日ご飯を作って綺麗に掃除をしても、それは家庭内では「普通のこと」になっていて、面と向かって大声で褒めてはもらえませんし、価値はゼロだと思われがちなんです。でも、それが一歩外に出てお客様に喜んでもらうことで、自分の家事能力が「潜在的なすごい価値」だったんだと気づいて、みんな生き生きと輝いて自己肯定感を高めていく。それを見られるのが、私にとってこの上ない喜びなんです。

 

「大切なスタッフだから、決して強く責めない」――超近距離で一人ひとりの事情に寄り添う経営

--  メリーポピンズさんは、相場の家事代行よりも時給をかなり高く設定されていると伺いましたが、それもスタッフを大切にしたいという想いからですか。

 

渡辺 この家事代行という仕事はけっこう体力の要る仕事で、2時間なら2時間の間、お茶を飲む1分くらいしか休まずにずっと体を動かし続ける現場なんです。だからこそ、それに見合うだけのお給料はしっかりお支払いしたいですし、最初の会社のような嫌な想いを絶対にさせたくないから、そこはしっかりお金を支払うと決めています。その代わり、クオリティの面では私は一定水準以上の厳しい目を持っていますよ。

 

--  渡辺さんから見て、現場のクオリティが自分の納得いくレベルに達していないときは、どのようにスタッフに伝えるのですか。

 

渡辺 例えば、私がチェックに入ったときに、トイレの換気扇の上に埃がパンパンに積もっているのを見つけることがあります。お客様は天井を見ないから気がつきませんし「綺麗になった」と喜ばれているのですが、私は見過ごせない。でも、そこでスタッフを「なんでここやってないの!」って強く責めたりは絶対にせず、大切なスタッフだからこそ「注意深く天井の換気扇も見て、埃を取ってあげてね」って、やんわりと伝えるようにしています。

 

--  強く言わないのは、スタッフが萎縮して辞めてしまうのを防ぐためなのでしょうか。

 

渡辺 それもありますけれど、見えないところ、言われないところ以外はみんな本当に一生懸命やってくれていますから、頭ごなしに怒るようなことはしたくないんです。でも、お客様がその場で気づかなくても、プロとして汚れた箇所を残したまま帰るのは私のプライドとして申し訳ないし恥ずかしいですから、スタッフに「お客様はよく見てくださっているから、綺麗にしてあげようね」と促す、それが私の役割だと思っています。

 

--  渡辺さんは17名全員のスタッフと定期的にお茶やランチに行かれているそうですが、それほど密な距離感を保つのは大変ではないですか。

 

渡辺  結構な頻度で、現場の帰りに「ちょっとお茶飲んでいこう」って誘って、個別に行くようにしているんです。そうやって日頃からお互いの垣根を低くして、意思疎通をしておかないと、スタッフが家庭で何か悩みを抱えていた場合、察することができないんですよね。以前、スタッフのお子さんが不登校になってしまって、仕事を続けるのが難しくなったという相談を受けたことがありました。

 

-- そのときは、組織としてどのように対応されたのですか。

 

渡辺 私はすぐに「急がなくていいから、今はしっかりお子さんを見てあげて。この仕事はいつでも戻ってこられるし、落ち着いたらまたおいで」って伝えて、休んでもらいました。会社によっては「シフトに穴があいて困るから休まないで」となるところでしょうけど、スタッフの生活や家族を最優先に考えて寄り添うのが、個人事業であるメリーポピンズの『超近距離マネジメント』なんです。この仕事はAIに取って代わられない「人と人との関わり」がすべてですから、働くスタッフ自身が幸せで、心に余裕がなければ、お客様の家庭に温かいサービスなんて絶対に届けることはできませんと私は確信しています。

 

次の世代へ、すべてを理解して覚悟を持ってくれる優秀なナンバー2へ繋ぐ

--  これからの未来に向けて、今後の事業の展開やご自身のキャリアの引き際については、どのようにお考えですか。

 

渡辺  私は今61歳なんですけど、さすがにあと10年もこの体力勝負の仕事を自分が一線で引っ張り続けるのは難しいなと思っています。でもありがたいことに、うちには私の想いや現場の大変さをすべて理解して、覚悟を持ってついてきてくれている優秀なナンバー2がいるんです。彼女はコロナ禍で飲食店が閉鎖してしまったときにうちに来てくれたんですけど、子どもを育てながら、すべてにおいて本当に優秀に働いてくれていて、彼女になら私はこの事業を譲れると思っています。

 

-- ご自身の家族や親族に継がせるという選択肢はなかったのですか。

 

渡辺 よく「家族に継承しないの?」と聞かれることもありますけれど、この事業はそんなに生易しいものではないんですよ。働くスタッフを守るという本気の覚悟がなければ絶対に会社は潰れてしまいますから、私の思いをすべて理解して、大変なことも一緒に背負ってくれる覚悟のある彼女にバトンを渡すのが、私にとっても、これまできちんとついてきてくれた17名のスタッフに対しても、一番幸せな承継の形だと思っています。

 

--  自分の利益だけでなく、働く人の幸せや恩返しを最後まで追求される姿勢が本当に素敵ですね。

 

渡辺 私は特別な経営者の勉強をしてきたわけでもないですし、ただ毎日、目の前のスタッフとお客様のことを一生懸命に考えて走ってきただけなんです。でも、かつて何もできない主婦だった私がここまで来られたように、この仕事を自分でやりたい、起業したいという人がいれば、私は自分が培ってきたものを惜しみなく全部教えたいし、心から応援したい。そうやって、人と人との繋がりを次の世代にしっかり残していくことこそが、私の人生の完結だと思って、これからも一歩ずつ進んでいきたいですね。

メリーポピンズ代表

「私、何もない主婦だったから」渡辺さんはインタビュー中、何度もそう口にされました。しかし、その言葉の裏にあるのは卑下ではなく、同じように悩む誰かへの、どこまでも優しいエールでした。特別な才能や、華々しいキャリアがなくてもいい。「目の前のことを一生懸命やる」「目の前の人を大切にする」という、シンプルな姿勢こそが多くの人たちを救う、何より強力なエネルギーになるのだと、渡辺さんの生き様が証明しています。

 

「働く」とは、単にお金を稼ぐ手段ではない。自分の奥底に眠る価値を再発見し、それを誰かの幸せのために使い、自分自身の存在価値をインフレさせていくプロセスそのものなのだと、彼女の言葉の「体温」が教えてくれました。

この記事を書いた人

小川藍

小川藍

新卒2年目。大学での心理学の学びがきっかけで、「人の心を動かす」ことに興味を持ち、求人業界に飛び込む。「人と企業を結ぶ採用支援」に魅力を感じ日々営業活動中。「あなただから頼みたい」そう言っていただける営業を目指し、日々営業中。

営業

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