「稼げないと辞めちゃうでしょ」綺麗事じゃない優しさで物流の未来を拓く、不器用な大人の背中——株式会社スリーウイン

「稼げないと辞めちゃうでしょ」綺麗事じゃない優しさで物流の未来を拓く、不器用な大人の背中——株式会社スリーウイン

大串 雪夫氏

大串 雪夫氏

株式会社スリーウイン

代表取締役

(おおぐし ゆきお)/京都の中央卸売市場で十数年勤めた後、結婚を機に愛知へ。大手物流会社の管理職を経て、2017年に株式会社スリーウインを設立。社名は「三方良し(売り手・買い手・世間良し)」の理念に由来する。現在は「ラストワンマイル」の軽貨物運送を中心に、全国の国公立大学における「物流の一元化」という日本初の事業や、ドライバーのセカンドキャリアを見据えたラーメン店の経営など、独自の視点で多角的な事業を展開している。

毎日同じように会社へ行き、目の前の仕事をこなす日々の中で、「このままでいいのかな」「働くってなんだっけ」とふと立ち止まってしまう夜はないでしょうか。今回お話を伺ったのは、愛知県を中心にラストワンマイルの軽貨物運送事業を展開する株式会社スリーウインの代表取締役、大串雪夫さんです。

 

京都の魚市場での十数年におよぶ下積み時代を経て、大手物流会社の管理職を務め、2017年に同社を設立。現在では運送業にとどまらず、ドライバーのセカンドキャリアを見据えた本格的なラーメン店の経営や、全国の国公立大学における「物流の一元化」という日本初の事業まで、独自の視点で多角的な挑戦を続けています。

「三方良し(売り手・買い手・世間良し)」を由来とする社名を持つ同社ですが、大串社長の口から語られるのは、スタートアップ企業のような耳障りの良いビジョンではありませんでした。そこにあったのは、働く人の生活と真摯に向き合う、泥臭くも圧倒的な体温を感じる「大人のリアルな言葉」でした。

 

 

京都の魚市場から物流業界へ。綺麗事抜きの「稼がせる」ことへの執念

 

――設立が2017年とのことですが、まずは起業のきっかけや、大串社長のこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますでしょうか。

 

大串社長(以下、大串):もともと遡ると、僕は京都の中央卸売市場で十数年間働いてたんです。魚屋だから全く職種が違うんだけどね。そこでたまたま結婚の機会があって、相手が愛知の人だったもんですから、こちらの方に越してきて。それから大手物流会社でずっと管理職をやってたんだけど、うちの家庭の事情で、当時の勤務体系がどうしても不可能になっちゃって。引き止めはされたんだけど、お断りして退職したんです。それから半年ぐらいして個人事業主として、ラストワンマイルの今の仕事をやりだしたっていう流れですね。当初はあつまるくんみたいな求人案内でドライバーを集めて、20人ぐらいでスタートしたかな。

 

――異業種からの転身を経て、現在は30数名のドライバーさんがご活躍されていると伺っています。物流業界は人の出入りが激しいイメージがありますが、御社では長く定着されている方が多いのはなぜなのでしょうか。

 

大串:我々の業界っていうのは、例えば体を壊しましたとか、具合が悪くなったっていう理由でドライバーが離職するのはたまにあるんです。やっぱり大変な仕事なんでね。でも、それ以外の理由ってね、やっぱり「稼げない」とすぐ辞めちゃうんですよ。ある程度大変な仕事だから、それなりにお金にならんとやっぱ辞めちゃうんでしょ。うちは平均すると、その30数人っていうのはもう固定みたいなもんだよね。なんでかと言ったら、おそらく稼げるからですよ。

 

――大串社長のお人柄や働きやすさも当然あると思うのですが、やはり一番の理由はそこにあるのですね。

 

大串:そりゃ誰だって、仕事に見合った給料もらえなかったら嫌でしょ?(笑)。だからプラスアルファで、支払い条件なんかも元請けと交渉して、少しでもよそより高く出してあげれるようにするんです。例えば「こういう立地なんだから、普通は1個180円だけど200円にしてほしい」とかね。その上がった分は全てとは言わないまでも、5円でも10円でもちゃんとドライバーに還元してあげる。そういうやり方をしてるんです。何よりも僕が一番大事にしてるのは、稼がせてあげたいっていうことだから。だっていくら僕がいいこと言ったって、お金にならなきゃみんな辞めちゃうでしょ。逆に言うと、「みんなそこそこ長くいて固定みたいだよ」っていうのは、それなりに満足のできる収入になってるっていうことなんだと思いますよ。

 

 

「さよなら」ではなく、第二の人生を。しじみラーメン店に込めた社員への眼差し

 

――稼がせてあげることへの強いこだわりが、ドライバーさんたちの生活を支えているんですね。御社では運送業のほかに、島根県産のシジミを使ったラーメン店の経営もされていますよね。これは一体どういった経緯で始められたのでしょうか。

 

大串:ドライバーっていうのは年齢とともにどうしても難しいことが出てくる。体力が落ちて現場の仕事ができなくなった時に、なにかできないかなって考えたんです。いろいろ考えた末に、じゃあ家族がいれば家族と一緒にでもラーメン屋をやればいいじゃないか、ということで新事業として始めたんです。例えばここで6年働いたら6年分の家のローンが減って、それは自分の財産が増えてるっていうことですよね。そうやって僕の「稼がせてあげたい」がかなえられるんじゃないかって。「もう働けないからさよなら」って退職するんじゃなくて、第二ステージとしてのラーメン屋。当然誰でもいいっていうわけじゃなくて向き不向きはありますけどね。うちで1号店があればしっかり研修もできるでしょ。そういう思いがあって始めたんです。

 

――利益拡大のための多角化というよりは、ドライバーとして現場に立ち続けることが難しくなった時の「第二の選択肢」を用意するためだったのですね。

 

大串:そうそう。他にも、今もちょうど名古屋で9年ぐらいやってくれてる50歳ぐらいのドライバーがいるんですけどね、腰を痛めちゃって来年からちょっと現場が厳しい状況になってしまって。本当はまだ働かないといけない年齢だし、小中学校の子供がいて大学にも行かせないといけない、自分で家を建ててるからローンもある。さりとてやっぱり体が一番大事でしょ。我々はどうしても重たいものを持ったりするから、ドライバーっていうのは総じて腰を痛める場合が多いんですよ。だからその人には来年から本社で、営業とか管理の方をやってもらうことにしてるんです。現場でできなくなった人間を「さよなら」ではなくて、なんとかうちに関わりながらこの先もやってもらえないかっていうのは常に模索しますね。

 

――社員の方の人生の後半戦まで本気で引き受けようとされている姿勢に、本当に温かい会社なのだなと感じます。ラーメンの食材にも、並々ならぬこだわりがあると伺いました。

 

大串:そこは僕の性格的なものがあってね。島根県の松江の宍道湖のしじみなんだけど、大和しじみっていう粒がものすごく大きくていいしじみがあるんですよ。百貨店なんかでも100グラム1000円ぐらいで売ってるような高級食材です。そのしじみの凝縮したエキスで出汁をとるからより濃厚になる。あとは白バイ貝っていう貝があって、島根の漁師に頼んで送ってもらって、その貝から抽出した油をラーメンに垂らしてるんです。麺も国産小麦の自家製麺だし、ものすごい原価が上がるのに、じゃあなんでそこまでやるかって言ったら、少子高齢化の中でお年寄りが増えてくる中で、やっぱり体にいいものが主流になるだろうっていう考え方もあったんです。あとは、ドライバー募集する時に「うちは頑張るだけ頑張って、ダメだったらラーメン屋までありですよ」って差別化になるんじゃないかなと思って。たけど、今のところあんまり上手くアピールできてないから頑張らないとね(笑)。まあ、思いとしてはそういうことです。

 

 

「物が届かなくなる時代」に立ち向かう。日本初、国公立大学の物流一元化という挑戦

 

――現場の働き手を守る一方で、これからの物流業界全体の課題に対しても、非常にスケールの大きな取り組みをされていると伺っています。「国公立大学の物流の一元化」とは、具体的にどのような事業なのでしょうか。

 

大串:大学って敷地がものすごく広いじゃないですか。教授の方とか生徒さんが大学に持ってきてほしいと頼む荷物って結構あるんですけど、授業に行っていれば受け取ることが出来なくて不在になる。そうすると再配達で2時間の枠内で届けなきゃいけないっていう縛りができる。学生さんにとっては2時間ずっとそこにいなきゃいけないから大変だし、我々運送業者も他の荷物との兼ね合いであちこち動き回ることになるし、送り主にとってはちゃんと届いたか分からない時間が長くなるしで、三方向で誰もいいことがないんですよ。そこで大学に掛け合って、大学構内の物流を一元化させてほしいと頼んだんです。外の業者さんは我々が指定する場所に荷物を下ろしていただいて、そこから先、敷地内では我々が配達しますよっていう仕組みです。

 

――それは全国の大学でも初めての試みなのですか?

 

大串:日本で初めてです。今年(2026年)の5月26日から島根大学の松江キャンパスでスタートして、今はいろんなところを回ってご挨拶してるところです。東大や京大、名大なんかにも声をかけていて、これが広がれば間違いなく大学側にとっても学生のための環境整備としてプラスになると思うんです。なんでこういうことをしてるかって言うとね、この少子高齢化の中で、今はどこも人手不足じゃないですか。大手を含めてどの配送業者さんも、みんな同じように人が来ない。ということは、これから先はもっと人手不足になって、やがては「物がスムーズに届かない時代」が来るだろうと思ったんです。

 

――物流が機能しなくなる未来を見据えて、今のうちから新しい仕組みを作らなければいけないという危機感があるのですね。

 

大串:そう。そういう全体的なことが予知できる中で、じゃあ大学という塀の中の1万人をコントロールすれば、その分だけ他の業者さんがぐるぐる回る時間を削減できて他に行けるでしょ。AIやロボットで何とかできますっていう話もあるけど、この宅配っていう仕事は最終的には「人から人」だから、なかなかロボットが1個1個荷物持ってピンポンしてっていうのは無理なんですよ。だから我々みたいな零細企業が一社でできる話じゃないから、将来的には大きい上場企業とタイアップして、世の中のためにこういうビジネスをやっていけないかと考えてるんです。

 

 

「すべては自分の不徳」。不器用でお金を残せない、けれど信頼をつなぐリーダーの生き様

 

――現場のドライバーさんの生活を守り抜きながら、日本の物流の未来までを変えようとされている。その原動力や「三方良し(スリーウイン)」という理念は、大串社長の中でどのように培われてきたのでしょうか。

 

大串:いや、もともとそういうのは生まれ持ったもんですよ。社長の理念とか創業理念なんていうのは、突然どっかから借りてきたような言葉じゃ説得力もないしね。ずっと同じ会社と付き合うとか、そういうのも結局は性格じゃないですか。御社アクセスさんとも、もう10年近く最初からずっと付き合っていますしね。ビジネスだから単価的には無理を言うかもしれないけど、本質的には変わらない。信頼ができればずっと同じところと付き合うっていうのは、創業者の性格だと思いますね。

 

――長くお付き合いさせていただく中で、我々もその実直で誠実な姿勢にいつも助けられています。

 

大串:僕はね、日々いろんなことがあるけど、すべて何かある時は「自分の不徳」だと思ってるんです。瞬間的に腹が立つことがあっても、やっぱり自分が良くなかったなっていう考え方。だからそれはウィンの理念というより、僕の生まれ持った性格的なものだと思う。まあ社長自体はこんな感じで、そんなに学があるわけじゃないし、お金残せないタイプだけど(笑)、いい会社だと思っているのでこれからも社員も含めて大切にしていきますよ。

 

 

「お金にならなきゃみんな辞めちゃうでしょ」。大串社長の言葉には、一切の装飾や自己顕示欲がありませんでした。しかし、そこには「働く人の生活を何があっても守り抜く」という強烈な覚悟と、業界の危機に対して自ら汗をかいて道を切り拓こうとする本物の大人の姿がありました。

私たちはつい、仕事の意味ややりがいを頭で難しく考えすぎてしまうことがあります。しかし、現場と向き合い、社員の数十年先まで見据えて走り続ける大串社長のお話を聞いて、「働くこと」の本当の熱量に触れた気がしました。綺麗事だけでは進めない毎日の中で、こういう体温のある大人が社会を動かしている。その事実が、明日へ向かう少しの勇気をくれるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

小川藍

小川藍

新卒2年目。大学での心理学の学びがきっかけで、「人の心を動かす」ことに興味を持ち、求人業界に飛び込む。「人と企業を結ぶ採用支援」に魅力を感じ日々営業活動中。「あなただから頼みたい」そう言っていただける営業を目指し、日々営業中。

営業

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